第343回大阪地方会テーマ演題の印象記

テーマ演題:アトピー性皮膚炎の心身症的側面

 この演題は主催者の清水良輔先生(神戸労災病院皮膚科)の関心事なようで、6つの演題が集まりました。6題の演題ですが発表には討論を含めて2時間30分もかかり、質問も多く出されました。興味深い発表が多くありましたので、私(加藤)が発表を聞いて感じたことをまとめました。必ずしも発表者の意図を汲んだものではないことをお断りします。

テーマ[1] ホームページにみるアトピー性皮膚炎の患者心理
加藤晴久(星ヶ丘厚生年金)
テーマ[2] アトピー性皮膚炎といじめ、不登校:アンケート調査より
片岡葉子、吹角隆之、遠藤 薫、檜澤孝之、青木敏之(大阪府立羽曳野)
テーマ[3] アルコール依存症とアトピー性皮膚炎
沼田 剛、星野 力、中村透子、小村十樹子、川上尚弘、清水良輔(神戸労災)、田澤晶子、黒崎英樹(同・臨床心理)
テーマ[4] アトピー性皮膚炎入院患者における生育歴ならびに家族内葛藤
川上尚弘、星野 力、沼田 剛、中村透子、小村十樹子、川上尚弘、清水良輔(神戸労災)、田澤晶子、黒崎英樹(同・臨床心理)
テーマ[5] 成人型アトピー性皮膚炎における自律神経失調症状ならびに精神症状
渋谷信治(大阪市)
テーマ[6] アトピー性皮膚炎と心身医学:主として臨床統計学的データをもとに
羽白 誠(関西労災)


テーマ[2] アトピー性皮膚炎といじめ、不登校:アンケート調査より

片岡葉子、吹角隆之、遠藤 薫、檜澤孝之、青木敏之(大阪府立羽曳野)

 今年の夏に羽曳野病院に通院する小中高生165名にアンケート調査を行った。アトピー性皮膚炎のための不登校の経験は4%にみられた。不登校の期間は小学生では短期(1か月未満)が多いが、中学生の18%、高校生の22%は1カ月以上の長期の不登校を経験している。

いじめは小学生の38%、中学生の22%、高校生の17%になんらかのいじめの経験があった。

19%は友人以外の他人からいやな思をさせられた(行きずりの人にじろじろみられたり)経験があった。

 アトピー性皮膚炎の子供の心的外傷にも留意すべきである。

これに対して「心的外傷(いじめ)を受けやすい子供がアトピー性皮膚炎になりやすいのではないか(というふうに考えられないか)?」との意見も出された。

羽曳野病院では不登校の子供は院内学級で対処しているとのことでした。


テーマ[3] アルコール依存症とアトピー性皮膚炎

沼田 剛、星野 力、中村透子、小村十樹子、川上尚弘、清水良輔(神戸労災)、田澤晶子、黒崎英樹(同・臨床心理)

1996年から1997年の1年3カ月間にアルコール依存症(厳密にはアルコール乱用)を父にもつ患者(これはadult children of alcoholicsといい心的外傷を受けやすい性格をもっていることが知られている)18名を経験し、16名から詳しい話を聴取することが出来た。このうち12名は入院を経験している。

具体的に33歳、女性のアトピー性皮膚炎患者を提示した(父親がアルコール依存症で夫もアルコール乱用)。夫のアルコール乱用が親戚の介入によってなくなると、夫は家計の大半をパチンコに費やすようになったが、患者は「アルコールをやめてくれているから」という理由で夫を許していた。しかし、子供への暴力を見かねた親戚の介入で離婚に至った。離婚後アトピー性皮膚炎はいったん増悪したものの後に今までにないほど改善し就職もした。就職後、やはり皮疹の増悪をみ、子供の登園拒否がおこった。幼稚園の園長の勧めにしたがって、子供を無理やり登園させていたが、子供は毎朝嘔吐するようになった。また職場では同僚からアトピー性皮膚炎の民間療法をしきりに勧められ、断りきれずに仕事をやめようとまで思っている。

 ここでadult children of alcoholicsの特徴が提示され、この女性患者の性格と一致する点が多いことが示された。

このような患者の場合以下のような特徴があるだろう。

  1. 就職、結婚、離婚、学校への適応に問題のあるケースが多い。
  2. 入院後の同室者とのトラブル等人間関係から来るストレスがアトピー性皮膚炎の増悪傾向となっていることが多い。
  3. 心身症の合併頻度が高い。
  4. 幼小児期の心的外傷により人間関係からストレスを生じやすく、皮疹増悪をきたすと考えられた。
  5. アトピー性皮膚炎が重症化しやすい傾向にある。

質問:このような性格を持つ患者の治療としてどのような取り組みがなされているのか?

答:グループ治療を考えている。現在4グループある。

質問:コントロールスタディが必要である。アルコール依存症の父親をもつ子供がみんなアトピー性皮膚炎になるわけではない。

答:そのとおりだ。科学的な検証も必要である。しかし困難な問題でもある。

意見:入院して皮疹が改善したのは単にストレスが取れただけではないのか? 生活環境の変化も関与している。

補足:入院で皮疹が改善しても元の生活(家族内のトラブルがある状態)に戻ると皮疹は増悪する(清水先生)。


テーマ[4] アトピー性皮膚炎入院患者における生育歴ならびに家族内葛藤

川上尚弘、星野 力、沼田 剛、中村透子、小村十樹子、川上尚弘、清水良輔(神戸労災)、田澤晶子、黒崎英樹(同・臨床心理)

アトピー性皮膚炎患者107名を次の3群に分け、

抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、非ステロイド系の外用剤を使用するのみで、希望する患者には一切の投薬を行わずに治療した。40%の患者は略治した。とくに高齢発症群ではこの傾向が著明であった。

外泊・退院で80%のケースで皮疹の増悪が認められた。これは各群に有意差なし。

幼小児期の心傷体験・喪失体験が57%に認められた。具体的には両親の不仲に起因する問題、家族の慢性疾患、暴力などが多いようである。

患者が挙げる心理的増強要因として

が大きいようである。

心理テストでは35%の患者に不安傾向が強く、カウンセリングが必要な状態であり、特に遷延群に多いという。アトピー性皮膚炎が人格形成に関与している可能性がある。

質問:皮膚科医が心理的側面に関与していくためにはそれなりの教育システムも必要である。また、とても今の医療体制(保険制度)では無理であろう。

答:医師側のストレスも多い。ロールプレイングをすることでより効率的な診療を心掛けている。

神戸労災の皮膚科のスタッフは6名もおりますから出来るんでしょうかね(加藤)。


テーマ[5] 成人型アトピー性皮膚炎における自律神経失調症状ならびに精神症状

渋谷信治(大阪市)

成人アトピー性皮膚炎の患者59名、対照(正常成人)48名で自律神経症状と精神症状についてCMI法、阿部法で心理テストを行った。精神症状としてアトピー患者では「不適応」とされるものがコントロール群に比べて有意に高かった。

スライドの文字が小さくよくわかりませんでした。以下に印象を書きます。

演者がアトピー性皮膚炎患者を診察している印象では「性格が優しい、品がある、まじめ」とのことで、言ってみれば医者にとっては扱いやすい患者ということだそうです。いい面を見れば医師・患者の信頼関係を築きやすいともいえます。演者は短期的な治療効果(たとえばステロイドを使用して皮疹を素早く消してしまう)に目を奪われるのではなく、ホリスティックな治療が必要であることを強調していました。ただもともと精神的に「不適応」傾向にあるとされる患者が多いにもかかわらず医者の前では従順にしているところが前2題にあったadult children of alcoholicsの性格と一致するところが多いように思いました。この点を演者に質問しましたが、演者の病院にはもともと脱ステロイドを目的に来院される方がほとんどとのことで、目的がはっきりしている分医者にとっては扱いやすい患者ばかりが集まっているのだな、という印象を受けました。因みに清水先生のところでは、「扱いにくい」患者の方が皮疹は改善しやすい傾向があるそうです。


テーマ[6] アトピー性皮膚炎と心身医学:主として臨床統計学的データをもとに

羽白 誠(関西労災)

コントロール群とアトピー性皮膚炎群で不安・抑うつ・精神身体症状を心理テストの結果をもとに比較してみた。アトピー患者では抑うつ傾向が強く、精神身体症状にも有意差が認められたが、不安感には有意差が認められなかった。

自我構造はアトピー性皮膚炎患者でわがままな欲求が強い、母性性が低い、協調性のなさが目だった。

質問:病気が先行して精神(状態)が変わるのか?

答:どちらが先行しているのかこのテストではわからない。