中谷皮フ科

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「アトピー性皮膚炎の治療ガイドライン」〔試案〕

平成9年度厚生科学研究

アトピー性皮膚炎治療ガイドラインの概要

アトピー性皮膚炎に対する本治療ガイドラインは、現在ともすれば偏向しがちな本症の治療に対して、その概要を示すものである。その骨子は以下のごとくである。

1.診断

本症は湿疹病変であり、類似の症状を示す他の湿疹・皮膚炎群を鑑別し正確な診断がなされなければならない。

2.皮膚症状の評価

治療法の選択にあたっては、皮膚症状の適切な評価が必要である。

3.悪化因子の除去

本症が多因子性の疾患であることから、各症例においてその悪化因子を把握し除去することが必要である。

4.スキンケア

本症に特有の皮膚機能・形態異常の改善が必要である。

5.薬物療法

炎症を抑制するためには適切な薬物療法が必要である。

本治療ガイドラインは以上の点を中心に組み立てられている。なお本治療ガイドラインは個々の治療法の詳細なガイドラインを示すものではない。現段階では各治療法の詳細については成書などを参考にするものとし、引き続ぎ必要に応じてそれらを本治療ガイドラインに加えていくものとする。

*診断基準について

本邦における診断基準には、日本皮膚科学会基準と厚生省心身障害研究班基準があるが両者は大筋において矛盾するものではなく、現在のところ日常診療においてはこれら両者の基準を参考に診断して間題はない。

**薬物療法に対する皮膚症状の評価のめやす

現在アトピー性皮膚炎の重症度基準は煩雑なものが多く、専門医でなければ運用が困難であるため専門医以外の医師にも利用でぎるよう便宜的に下記の重症度をめやすとする。

軽症:軽度の皮疹が体表面積の10%末満。

中等症:軽度の皮疹が体表面積の10%以上50%未満、かつ強い炎症を伴う皮疹が10%未満。

重症:軽度の皮疹が体表面積の50%以上、かつ強い炎症を伴う皮疹が10%以上。

最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の50%以上。

*軽度の皮疹:軽度の紅斑、乾燥、落屑主体の病変

 強い炎症を伴う皮疹:紅斑、丘疹、苔癬化、浸潤、びらんなどを伴う病変

注意事項

1.原因・悪化要因の検索・除去,スキンケア指導,薬物療法は価々の症例において適切に組み合わせて行う。

2.アトピー性皮膚炎は,伝染性膿痂疹・カポジ水痘様発疹症・伝染性軟属腫などの感染症を合併しやすいため,これら感染症の早期発見に努め,感染症状に対しては速やかに適切な処置を行う。

3.眼病変(特に白内障・網膜剥離など)の合併に注意する.顔面の皮疹のため、眼を強くこする、あるいは叩くなどの外傷性要因により眼病変を生じやすいことに留意する。

4.症例によっては抗生物質・抗菌薬,抗真菌薬,漢方薬,光線療法,心理療法が有効なことがある。

5.このガイドラインは一般的なめやすであり,症例によってはこの限りではない.ーケ月以上このガイドラインに従って治療しても皮疹の改善がみられない場合は,速やかに専門の施設に紹介する。

分担研究者 山本昇肚  広島大学医学部皮膚科

研究協力者

青木敏之 大阪府立羽曳野病院皮膚科
秋山一男 国立相模原病院臨床研究部
今山修平 九州大学医学部皮膚科
小澤明  東海大学医学部皮膚科
高路修  広島大学医学部皮膚科
下条直樹 国立療養所下志津病院小児科
田中洋一 長崎大学医学部皮膚科
玉置邦彦 東京大学医学部皮膚科
鳥居新平 愛知学泉大学家政学部
中川秀巳 自治医科大学医学部皮膚科
中山秀夫 中山皮膚科クリニック
古江増隆 九州大学医学部皮膚科
古川福実 浜松医科大学医学部皮膚科
眞弓光文 福井医科大学医学部小児科
森田栄伸 広島大学医学部皮膚科
山下直美 聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター内科