死の四重奏
春日医院新聞(1)


 いきなり「死の四重奏」とは穏やかではありませんが、さてこれは一体何なのでしょう?
 それはKaplanという人が、突然死を引き起こす可能性のある心筋梗塞などの冠動脈疾患の危険因子を四つ集め、注意を呼びかけたものです。四つの危険因子とは、肥満高脂血症耐糖能低下高血圧の四つです。これらはお互いに複雑に絡み合い、相乗的に作用し合いながら動脈硬化をきたし、冠動脈疾患を発生させる原因になることが知られています。


1. 肥 満

 まず肥満度と冠動脈疾患の出現頻度との関係を見てみましょう。

 上のグラフから、年齢、性別を問わず、太った人ほど冠動脈疾患にかかりやすいということがおわかりいただけるでしょう。
 なお、肥満のうちでも上半身肥満(ウエスト/ヒップの比が 0.8 以上;別名リンゴ型肥満)の方が下半身肥満(洋ナシ型肥満)よりも冠動脈疾患や糖尿病、高血圧を合併しやすいということもわかってきています。
 美容上だけでなく、健康のためにも太りすぎに注意しましょう!


2. 高脂血症

 高脂血症とは、からだにとって余分な脂肪分が血液中に流れている状態です。脂肪にもいろいろあり、その代表選手がコレステロールとトリグリセライド(中性脂肪)です。このどちらか一方、あるいは両方が基準値(正常範囲)以上ですと高脂血症という診断になります。

      
血液中の脂肪の基準値
基準値
総コレステロール220 mg/dl 以下
HDLコレステロール 40 mg/dl 以上
LDLコレステロール* 150 mg/dl 以下
トリグリセライド150 mg/dl 以下
    *LDL = 総コレステロール - HDL - トリグリセライド×0.2

 そこでまずコレステロールのお話ですが、コレステロールというとすぐ動脈硬化が頭に浮かび、根っからの悪者というイメージが定着しています。しかし、コレステロールは日々体内で作られる細胞の膜や、各種ホルモンの材料であり、からだにとってはなくてはならないものなのです。コレステロールは食物から取り込まれる以外に肝臓でも合成されます。そしてLDLという特殊な蛋白質によって血液中を体の各組織まで運ばれ、逆にHDLという蛋白により肝臓に戻されます。つまりLDLが必要以上のコレステロールを血管などに運ぶ一方で、HDLが肝臓に戻す量が少ないと、血管に余分なコレステロールが残っている状態となり、動脈硬化を起こしやすく、冠動脈疾患の危険性が高まってくるのです。
 下の図でHDL、LDL別に見た冠動脈疾患合併率のデータを示します。HDLコレステロール、LDLコレステロールがそれぞれ上の表で見た正常範囲をはずれると冠動脈疾患をおこしやすいことがわかります。

 血液中のトリグリセライドが高い場合も冠動脈疾患をおこしやすいということが最近の研究で明らかになってきています。下のグラフは427人の家族性高脂血症の患者さんのデータですが、男女ともトリグリセライド値の上昇とともに冠動脈疾患の合併率が高くなってゆく様子がよくわかります。

 一方、きっちりと治療して高脂血症を改善すれば、冠動脈疾患の発症は5年間で半分に減らすことができるというデータも最近発表されています。

 健康診断などで高脂血症が見つかったなら、「何も症状がないから…」などと言っていないで、積極的に治療を受けましょう。


3. 耐糖能低下

 死の四重奏の3つ目の項目、耐糖能の低下とは、糖尿病あるいはそれに近い状態で、消化吸収した糖分をうまく利用できず、血糖が上昇しやすい状態です。下のグラフのように糖尿病にかかっていると、そうでない人に比べて2倍〜3倍近くも冠動脈疾患を起こしやすいのです。

 特に糖尿病患者さんでは痛みを感じず、心電図をとってはじめてわかる心筋梗塞(無痛性心筋梗塞)になりやすいので、注意が必要です。


4. 高血圧

 4つ目は高血圧です。血圧には個人差がありますが、一応の基準として世界保健機構(WHO) の定義を参考にお示し、さらに血圧と冠動脈疾患発症率とのグラフをお示しします。

                 
(単位:mmHg、WHOによる)
最高血圧最低血圧
高血圧  160以上95以上
境界域血圧159〜14194〜91
正常血圧 140以下90以下

   上のグラフから、男女とも高血圧の人は正常血圧の人に比べて2倍〜3倍も冠動脈疾患にかかりやすいことがわかります。

 


5. その他の因子を加えて

 これまでに心筋梗塞などの冠動脈疾患を起こしやすい危険因子としてお話ししてきました肥満、高脂血症、高血圧、耐糖能低下の4つがひとりの人に同時に存在することでその危険性はさらに高まりますが、喫煙、ストレス、心電図異常、性格など他のいろいろな危険因子が重なり、「四重奏」が「五重奏」、「六重奏」...となるにつれて、ますます冠動脈疾患が起こりやすくなります。左のグラフは40才の男子を18年間経過観察したときの冠動脈疾患の危険率を推測したものです。Aのグループは総コレステロール値、耐糖能が正常で、たばこを吸わず、心電図上の左室肥大を認めない人達です。血圧が高くなるにしたがって危険率が高まっていますが、全体的に低い危険率にとどまっています。次のBのグループは総コレステロールの値が高い人達です。Aの人達より冠動脈疾患の危険が高くなっています。さらにC、Dのグループでは耐糖能低下、喫煙が加わることで危険率が増大してゆき、Eで左室肥大が加わり「五重奏」となると危険率は0.708(千人中708人が冠動脈疾患にかかる)という信じられないような予測がたてられています。
 狭心症や心筋梗塞などにならないためには、このような危険因子をできるだけ避け、ひとつずつでも減らしてゆく努力が必要です。


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最終変更日時:96.4.3.