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Title : Peace Reserach, Now and Then
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平和研究のこれまでとこれから

平和学の誕生

 戦争と平和についての学際的研究は19世紀に端を発する。
 しかしながらそれが切実な問題となり世界的な高まりを見せたのは第2次世界大戦終結後、もっと正確に言えば、核兵器を持つ国が複数になり、しかもその複数の国家同志が対峙しあう状況になってからである。
 1948年にポーランドで「平和擁護のための世界知識人会議」が開催され。米ソの平和共存と核兵器廃止がアピールされた。これを受けて各地で平和擁護世界大会が開かれるようになったが、その一方で米ソ両国は核兵器のさらなる開発を進めていた。特に1954年、アメリカ合衆国が南太平洋のビキニ環礁で水爆実験を行い、日本の第5福竜丸が被曝するという事件が起こった。日本でもこれを契機に反核の動きが高まり、第1回原水爆禁止世界大会が広島で行われることとなった。

 この世界大会に先立つ1ヶ月前、ラッセル=アインシュタイン宣言が発表され、科学者による核兵器廃絶・戦争反対を求める運動が始まった。この宣言を受けて1957年から始まったのが、パグウォッシュ会議である。

 このころから世界各国で平和研究のための機関が設立されていった。

  • オスロ国際平和研究所(PRIO ; International Peace Research Institute, Oslo)
     J.ガルトゥングの主導で1959年に設立されたノルウェーの国立研究機関。
  • リチャードソン紛争平和研究所(Richardson Institute for Conflict and Peace Research)
     1960年代に英・ランカスター大学に設立された研究機関。
  • カナダ平和研究所(CPRI; Canadian Peace Research Institute )
     カナダの研究者ノーマン・オルコックによって1961年に設立。現在ダンダス平和研究所として継続。
  • ストックホルム国際平和研究所(SIPRI ; Stockholm International Peace Research Institute)
     ミュルダール夫妻などにより1966年、スウェーデンで設立。その年報『SIPRI年報−世界の軍備と軍縮』は評価が高い。

 この期間に、B.レーリング、K.ボールディング、J.ガルトゥングらがロンドンに集まって国際平和研究学会(IPRA ; International Peace Research Association)が設立された。

平和研究の展開

 当初は戦争の防止という観点から始まった平和研究であったが、60年代後半から70年代にかけて、開発途上国の研究者から、戦争は起こってはいないが、平和とは言えない、「非平和」の状態があることが指摘されつづけた。いわゆる「南北問題」である。これにより平和研究の概念の拡張を迫られるようになった。これに対応する形で提案されたのが、ガルトゥングの「構造的暴力」の概念である。国際政治学の議論で言う「従属論」や「中心−周辺論」とも重なって議論できる概念である。
 武力紛争を解決することのみを対象とするのではなく、「暴力」の構造を改革していくための方法論の開発が大きな課題となる。そのための平和教育の問題がとりあげられるようになったのもこのころである。

 しかし70年代後半にソ連のアフガニスタン侵攻によりデタントが終結し、緊張した展開となる。

冷戦後の平和研究

 デタント終結後、急速に米ソ核戦争の危険性が高まった。
 しかもその後第40代アメリカ大統領に就任したレーガンはヨーロッパに新型核兵力(INF)を投入し、限定核戦争も辞さない体制を敷いたのである。

 しかしながらこの危機的状況も1985年にゴルバチョフがソ連書記長に就任してからは一変した。1987年には人類史上初の核軍縮条約・INF全廃条約が調印された。そしてマルタ島で冷戦の終結を宣言した。

 これにより、米ソ2大国による衝突の危険性は去ったが、そのためにこれまで表面化してこなかった低強度紛争(LIC ; Low Intensity Conflict)が散見されるようになった。平和研究の課題もこのような紛争への対処・予防に移ってきている。
 これに加えて「人間の安全保障」が提唱されるようになった。
 ただ武力紛争を防ぐのではない。
 人間が人間であることを貫く、その尊厳を守ることで、紛争そのものを起こりにくくしようとするものである。
 そしてそれを担う人間(peace worker)を育成していくことが大きな課題となってきている。

 平和を研究することが平和研究の目的ではなく、平和をもたらすことがその目的でなければならないからだ。

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Updated : 1999/05/04