<第1場>桃太郎誕生

〜 とある一軒家の前 〜


ナレーション: 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
        おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
        そう、これはかの有名な昔話「桃太郎」。
        この後、どんなことが起こったのかは……
        もう、皆さん、よぉくご存知ですよね?



おばあさん(鷹通)が、舞台下手より、大きな桃を抱えて登場。


おばあさん: やれやれ、長生きはするもんですね。
       川上から、こんな大きな桃が流れてくるなんて、
       人から聞いたら、わたしは絶対信じませんよ。


おばあさんは、重そうに桃を抱えなおすと、家の中へ。
舞台上手より、おじいさん(天真)が、背中に柴をたくさん乗せた背負い子(ショイコ)を背に登場。
おじいさんが家の中に入ってくると、おばあさんが駆け寄る。



おばあさん: おじいさん、大変ですよ! 川で洗濯をしていたら、
       川上から大きな桃が流れてきて……

おじいさん: あっ? お前、何言ってんだ? んなことあるわけないだろ?
       こっちは疲れてんだ。バカな冗談はまた今度にしてくれ。

おばあさん: (天真殿! セリフを勝手に変えないでください!)

おじいさん: (いいだろ、ちょっとぐらい。意味はおんなじだよ!)

おばあさん: (「ちょっと」じゃないじゃないですか……ぶつぶつ)


おばあさんは不満げな顔で台所に行き、大きな桃を持ってくる。


おじいさん: うわっ!! なんだ、それっ?!

おばあさん: だ・か・ら! これが、その「大きな桃」です!

おじいさん: すっげぇー! さっそく食おうぜ!
       これだけあったら、普通の桃何個分だろうな?


騒ぐおじいさんを無視して、黙ってまな板と包丁を取りに行くおばあさん。


おじいさん: あ! でも、デカイだけに、味も大味ってことないか?
       それだと、量がある分、ちょっとツライかもな。


まな板と包丁を手に、むっつりと戻ってくるおばあさん。


おばあさん: そんなことは、食べてみればわかります!(きっぱり)


おばあさんが桃に包丁を入れようとした瞬間、桃がパカッと割れて、
中から元気な男の子(ここでは人形)が飛び出してくる。

(おぎゃあ〜!)舞台暗転。



ナレーション: こうして、生まれた男の子は、桃から生まれたので、
        「桃太郎」と名付けられ、すくすくと大きくなりました。
        まぁ、名付け方がそのまんまっていうか、ちょっとひねりが
        足りない気はしますが、そこはそれ、「わかりやすい」ってことも
        ポピュラーな昔話には大事な要素ですから。




<第2場>さらわれる姫君

〜 貴族の館 〜


ナレーション: その頃、都では「鬼」と呼ばれる盗賊が人々を恐怖に陥れていました。
        彼らは「鬼が島」という所に本拠地を構え、時折都に現れては
        金品を奪ったり、若い娘をさらったりするという噂でした。



舞台が明るくなると、大きな庭のある貴族の館。
美しい姫が、所在なげにひとりで貝あわせをしている。



姫(永泉): はぁ……。貝あわせにも、もう飽きてしまいました。
       何か、もっと気持ちが浮き立つようなことはないものでしょうか。

謎の声(友雅): 姫のお気持ち、わたしが浮き立たせてしんぜよう。


姫は驚いて立ち上がり、庭先をあちこち見回すが、どこにも人の姿はない。


姫: 誰です?! どこにいるのですか?!


庭先の植え込みの影から、華やかな衣装を纏った長身の男があらわれる。
女物の薄い単衣を、頭からかぶって、にっこりと笑いかけると、
すばやく姫に駆け寄り、抱え上げる。



姫: あ…なにをなさいますっ!!

謎の男: しっ! お静かに。これより、姫を別世界へお連れいたします。


姫を抱えた謎の男は、風のように舞台下手へと走り去る。

(姫の声: あぁ〜れぇ〜〜〜〜!)舞台暗転。



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「鬼の首領参上!」
〜挿絵 by ともか様〜



<第3場>桃太郎出陣

〜 桃太郎の家の前 〜


おなじみの衣装に鉢巻をつけた桃太郎(詩紋)が、「日本一」と書かれたのぼりを持って立っている。
かたわらには、おじいさんとおばあさん。



おばあさん(鷹通): さぁ、これはわたしが作った「吉備団子」ですよ。
           これを持ってお行きなさい。


おばあさんは、桃太郎に吉備団子のはいった袋を手渡す。
桃太郎は、その袋を腰につける。



桃太郎(詩紋): あの…こののぼりは、どうしても持って行かなくてはいけませんか?

おじいさん(天真): 当然だろ? せっかく俺が書いてやったんだぞ?

桃太郎: はい…ありがとうございます。でも……「日本一」っていうのが…
     ちょっと、恥ずかしいのですが……。

おじいさん: いいじゃないか、「日本一」! 晴れがましいだろ?
       いいんだ、ホントに日本一かどうかなんて、誰にもわかりゃしない。
       こういうのは、「言ったもん勝ち」なんだよ!(笑)

おばあさん: おじいさん、あんまり勝手なことを色々言うんじゃありません。
       桃太郎が困っているではありませんか。
       (セリフを勝手に変えるのも、ほどほどにしてくださいっ!)

おじいさん: へいへい。

桃太郎: そ、それに、どうしてボクが「鬼退治」なのでしょう?

おばあさん: それは、お前の評判が高かったから、村のみんなが期待して……

おじいさん: ま、「評判」ったって、「親孝行」だとか「やさしい」だとか、
       そういうことだったんだけどな。
       それが、なんで「鬼退治」に行かなきゃいけないのかは……
       まぁ、勝手な世論ってやつか?(笑)

おばあさん: (天真殿っ! また!!)

おじいさん: (へいへい)

桃太郎: は……はい。わかりました。さらわれた姫君もいるということですし、
     ほおってはおけませんからね。

おばあさん: そうだよ。頑張っておいで。帰りを待っているからね。

おじいさん: 本物の「日本一」だってとこ、世間に見せてやれ!

桃太郎: は、はい…。行って参ります。


桃太郎は頭を下げると、意を決したように、のぼりを手に歩き始める。
見送るおじいさんとおばあさん。
舞台下手に歩み去る桃太郎。


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「桃太郎出陣!」
〜挿絵 by ともか様〜



ナレーション: こうして、親孝行でやさしい少年桃太郎は、
        心ならずも「鬼退治」の旅に出ることとなったのです。
        え? なんだか少しおなじみの昔話とは様子が違う?
        そうかもしれませんね。
        でも、案外、実際はこんなものかもしれませんよ?



舞台暗転。